番外編 いつかはたんぽぽの名のように

 

 

 

文久4年1月(ゲームでは「一之二」に該当します。冒頭はゲームからの引用になります)

私が新選組の屯所に暮らし始めて、早くも一週間が過ぎようとしている――

……本当は、早く父様を探しに行きたい。
結局のところ私はまだ、屯所から外に出してもらえていなかった。
京には父様を探しに来たのに、足止めを食っているような気がしてしまう。
まだ父様を探しに行けないんですかって、土方さんに聞いてみようかな。
千鶴「あ、でも……」
そういえば土方さん、大坂に出張しているんだった。
……。
千鶴「これって、鬼のいぬ間になんとかやら……?」
……私、どうしようかな。


 

部屋で大人しくする
誰かに頼んでみる
屯所を探索する ←


 

思い切って部屋を出たのだけど――
千鶴「誰もいない……?」
部屋から抜け出してきた手前、人がいないのはありがたいことだ。
でも、なんだか逆に後ろめたい気がする。
千鶴「やっぱり、部屋にいた方が良かったかな」
下手に屯所内を歩き回れば、余計なものを目にしてしまうかもしれない。
どうしようかな……?


 

(※↓勝手に新設・選択肢つくりましたw)
見に行く←藤堂・原田ルートに進みます
部屋に戻る←山崎ルートに進みます


 


やはり部屋に戻ろう。私がきびすを返すとそこには人影があった。
「何をしている?」
そこにいたのは監察方の山崎さんだった。
「君は部屋で謹慎の身のはずだが?」
「はい、そうです……!ただずっと部屋にいたままで、早く父様を探しに行きたいと思ってしまってつい……すみません」
「君の気持ちも分からなくはないが……」
その言葉に私は顔を俯けてしまう。
「しかし、土方さんは頭のキレる優秀な方です。鬼の副長などと呼ばれていますが、理不尽な判断をするような方ではありません。だから今は副長の命に従っておくべきだと俺は思う」
山崎さんの言葉に私は顔を上げた。その声色は強くそしてどこか優しい声だった。
私は自分勝手に父を捜したいと部屋を出てしまったが、土方さんも最善の策を考えて下さった結果がこれなのだ。山崎さんの言葉を聞き、土方さんの配慮に背く行いをしてしまった自分が急に恥ずかしくなった。
「そうですよね、土方さんも私の複雑な立場を考えて下さった上で判断されたことですものね。勝手に部屋を出ていったりしてすみませんでした」
山崎さんは土方さんの直属の部下。きっと土方さんの配慮を無碍にしてしまったことを快くは思っていないだろう。私は改めて謝罪の言葉を口にした。
しかし返ってきたのは私を気遣う言葉だった。
「我々、監察も綱道さんの行方を探している。君も歯痒いだろうが、もう少し待ってくれ」
「いえ、そんな!父のこと、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げ、足早に部屋に戻った。
山崎さんは目が鋭く、どことなく怖い印象を持っていたが、意外と優しい人なのではないか、と私の中で山崎さんの見方が少し変わっていった。



それから私は大人しく部屋で一日を過ごすようになった。
今でも父様を探したいという気持ちに駆られるが、新選組に迷惑がかからぬよう、必死にその気持ちを静めている。
あれから数日、私の部屋に珍しい人が声を掛けた。
「雪村君、いるだろうか?山崎です」
「山崎さん??」
私は声の元に駆け寄り、襖を開けた。
そこにいたのは緑の着物を纏った山崎さん。
「どうかされたのですか?」
私を監視する命が下っている沖田さんや斎藤さんのような幹部の方ではない、監察方である山崎さんが私の部屋を訪れるのは初めてに近かった。
「君にちゃんと報告しておいた方がよいかと思って」
「報告ですか……?とにかく廊下は寒いです、どうぞ中へ」
「すまない」
そう言うと、部屋に一歩踏み出し、静かに、そして無駄な動き一つない美しい所作で襖を閉めた。
「あの、報告って父様のことでしょうか?父様の行方が分かったのですか!?」
「申し訳ない。実は手がかりを見つけ追っていたのだが、人違いだった……だが、綱道氏が生きている可能性は高まった」
「父様が生きているかもしれないのですね……?」
「ああ。また情報収集から監察方総力を挙げて集め直している。もう少し待ってもらいたい……やはりこのような事、君を不安にさせるだけだろうか?」
「いえ!私はこの通り部屋から出られません。少しでも父様の手がかりを聞けただけで、生きているかもと言って頂けただけで十分です!それより、そんな情報私に話してしまってよいのですか?皆さんに迷惑がかかるんじゃ……?」
私は不安になって尋ね返す。すると山崎さんは思いがけない事を言った。
「君には知る権利があると思って……」
「知る……権利……?」
あまりにも意外な言葉に私は驚いてしまった。権利……?
「君は綱道氏のご息女だ。こちらの勝手でこんな窮屈な生活を強いられている。せめて綱道氏探しの状況を少しでも君に知らせたいと思って……不甲斐ない情報しかないのが心苦しいのだが」
「そんな!今の私には十分な情報です!それに、け、権利だなんて……皆さんのご迷惑になるなら申し訳なくて……」
「そのことに関して、問題はない。君が当然知るべき事柄なら話すべきだと俺は思っている」
「山崎さん……!」
「あ、いや、権利というのはあくまで俺個人的な考え方なのだが……、しかし、君にこの情報を話すことは副長から了承を得ている。安心してくれ」
「山崎さん、ありがとうございます!」
「礼を言われる事ではない。むしろこのような事しか君の役に立てず申し訳ない」
「そ、そんなやめてください。私は感謝しているんです!」
「なら、今後も、少しでも綱道氏について分かった事があれば君に伝えよう」
「はい!お願いします!」
「ではそろそろ俺は失礼する」
「お忙しいのに私の為に時間を割いて下さってありがとうございます!」
山崎さんは少し微笑み、部屋を後にした。


 

それから一月ほど経ち、山崎さんはまた部屋を訪れた。そして途中まで父の足取りが追えた事を教えて下さった。
一通り話を終え、部屋を去ろうとする山崎さんに私は勇気を出して話しかけてみた。
「あの、山崎さん、もしお時間がおありでしたら、お萩、いかがですか?」
「お萩?」
「はい、あの近藤さんが買って来て下さったのですが、一人ではとても食べられそうにない量で……でも、山崎さんお忙しいですよね……?」
「いや、今日は非番なんだ。取り立て急いではいないが……俺がもらっても良いのだろうか?」
「はい、もちろんです」
「なら言葉に甘えて一つ頂こう」
山崎さんは座り直し、お萩に手を伸ばした。

「あ、あの、山崎さん……」
「どうした?雪村君」
「えっと、あの、ご迷惑でなければで構わないです、父様の事……『今日は何もなかった』という一言だけでもいいです、時間がある時で構いません、声を掛けて頂けないでしょうか?やはり父の事が心配で……些細なことでも知ることでとても安心するんです、ですから……!」
「分かった。出来る限り君に報告しよう」
「あ、ありがとうございます!」
私は深々とお辞儀をした。
「お萩も馳走になってしまったな。そろそろ俺は部屋に戻るよ」
「はい、あのお仕事頑張って下さい」
私がそう言うと、山崎さんは少し驚いたような表情をし、そしてどこか後ろめたそうな顔色を見せた。私は何かいけない事を言ってしまったのだろうか?
私が慌てた様子を見せると山崎さんは「気にしないでくれ」と少し顔を明るくさせ、部屋を後にした。


 

それから山崎さんは4,5日に一度、私の所へわざわざ父探しの状況を報告しに来て下さるようになった。しかし、ここ最近は父の手掛かりが全く掴めず、監察方でも八方塞がりに近い状況のようだった。
山崎さんもこの状況を悔しそうにしている。本当は成果のない話など、知らせたくないはずなのに、山崎さんは律義に私に報告してくれた。
いつしか雑談をすることも増えていた。山崎さんのご実家が鍼灸を営んでおり、新選組の医療も担っている事を知り、私も蘭方医の娘であることから医学の話に花が咲く事もしばしばだった。


 

この日も、山崎さんは私の部屋を訪れていた。
いつものように談笑していると、外から声が掛けられた。
「千鶴ちゃん、入ってもいいかな?」
「沖田さん?はい、どうぞ?」
そう答えると襖が開き、仏頂面の沖田さんが現れた。
「山崎君、君、こんな所で何してるわけ?」
「雪村君に綱道氏の行方に付いて、分かっている事を報告しに来ている所ですが?」
「ふーん、綱道さんねぇ?で、どうなの、綱道さん、見つかったの?」
「いえ、最近はあまり手掛かりが掴めていないのが現状ですが……」
「何それ。そんな中途半端な事、千鶴ちゃんに教えに来てるの?千鶴ちゃんだってそんな話聞かされたら不安になるだけでしょ?」
「それは、そうですが……」
山崎さんは後ろめたそうに答える。
「違うんです、沖田さん!私が無理を言って頼んだんです。父様のこと少しでも知りたいからって」
「千鶴ちゃんが……へー」
沖田さんの視線は一直線に山崎さんに向けられている。
「何か用があるんですか?沖田さん」
山崎さんの鋭い声が沖田さんに向けられる。
「いや、別に?今日は僕が監視係なんだけど、面白い人が部屋に入って行くのが見えたからさ」
「そうですか」
「ふーん?」
「あ、あの、沖田さん?」
何か重々しい空気が流れる部屋にいるのが居た堪れなくなった私は沖田さんに声を掛ける
「あ、ごめんごめん、何か楽しそうな話をしてたから。外で監視してるっていうのもつまらないんだよね。ねぇ、僕も混ぜてよ」
「ええ、構いませんけど。あの、えーと、食用のタンポポについてお話していたんです」
「タンポポ?あれを食べるの?」
「ええ、生でも食べられますし、茹でたりすると美味しいんですよ?」
「体にもいいですからね」
山崎さんは静かに話をつなげる。
「なんか苦そうな感じがするんだけどなぁ~」
沖田さんはわざとおどけたような声を出す。
な、なんだろう……さっきからこの二人の間に流れる空気が妙に冷たい。
もしかして、あまり仲が良くないのかな……?

その後も会話は盛り上がりながらも、この二人の間に流れる冷たい空気だけは変わらなかった。
そろそろ私もその空気に酔いそうになっていた頃、廊下から声が掛った。
「雪村、少しいいか?」
この声は……
「斎藤さんですか?どうぞ?」
襖が開き、既に予想していたようで斎藤さんは開口一番に彼の名前を呼んだ。
「総司。やはりここにいたか」
「なーに?一君。僕に用?」
「副長がアンタを呼んでいる」
「げ、土方さん?何、僕怒られるの?」
「それは知らん」
斎藤さんの発する言葉はいつも短く、そして物事を的確に伝える。
「僕、今、千鶴ちゃんと山崎君とおしゃべりしてるんだけどぉ」
「いいからさっさと行け」
「もーしょうがないなぁ!じゃあ土方さんの所行ってくるよ、またお話しようね、千鶴ちゃん、山崎君?」
沖田さんは一瞬怖くなるような、満面の笑みを残し、斎藤さんと共に部屋を後にした。
「俺も少し長居をしすぎたかな。戻ろう」
山崎さんは立ち上がり、よれていた着物を二回ほど叩き、綺麗に整える。
「す、すみませんいつも、気を遣わせてしまって。でも山崎さん、いろんな事を知っておられるので、ついついお話を聞きたくなってしまって」
「君もずっと部屋に居るのは退屈だろう。……副長も君の外出を考えてくれているようだ」
「え?本当ですか!?」
「色々難しいようだが、隊士の巡察に同行という形なら、君を外に出す事もできそうだと」
「外……」
「俺からも君が巡察に同行できるよう、土方さんに進言しておこう。今暫く、勘弁してもらいたい」 
「そんな、願ってもいないことです、嬉しいです」
外に……やっと父様を探しに行けるかもしれない。既に少し諦めていた私に希望の光が差した。
そして3日後、ついに私に外出許可が下りた。
私は沖田さん率いる一番組の巡察に同行する事になった。

 




 

続きます……?
書けるか分かりませんが。出会い編というか、初会話編です。顔と名前は既にお互い知っています。
最後は一応ゲームで言う所の

外に出て父を捜す←
大人しくしている

矢印を選択した形になります。沖田・藤堂ルートですね。
ちなみに、脳内山崎ルートでは、
一番組の巡察に同行→沖田さん達小競り合い→父探し→桝屋突入→捕りモノに発展(古高捕縛)→結果的に山崎さん達の邪魔をしちゃうという流れです(笑)
ここはスゲーアニメの影響受けている気がする……(苦笑)
そして古高の自白から池田屋事件と発展します。

屯所に戻った千鶴は、最初は屯所残留組になります。
しかし、ゲーム土方・斎藤・原田ルート同様、山崎さんと伝令に出る事になります。
そして池田屋の一件が終わり、屯所に戻ると、山崎さんから隊士の手当ての手伝いを頼まれ、処置終了後労いの言葉が貰えるっという流れになります。ここで、好感度がUPするような選択肢があるんです、きっと(笑)

ゲームでは、沖田・藤堂ルートを進んだら、池田屋強制参加組になるのですが、山崎ルートってことで勝手に新設選択肢を盛り込んで、屯所残留組にもなれるようにしました(笑)
どうでしょう?なんとか山崎ルートになっているでしょうか……?
とりあえず、急遽ノープランに近い状態から2日で書いたので、いろいろおかしい所もあるかと思いますが、目をつぶって頂けたら幸いです。
ちなみに、本当に細かいことですが、随想録をやられた方はお分かりだと思いますが、
千鶴に山崎さんが紹介されたのは、本当は「軟禁3ヶ月後」だというのはこれを読む際には忘れて下さいね(笑)

さて、これは司馬遼太郎の創作らしいですが、
『事前に池田屋に山崎さんが忍び込んでいた説』もありますよね。
長州勢の刀を隠して新選組を有利にさせた、とかそんな展開。
私が読んだ「竜馬がゆく」でもそのシーンは描かれていました。確か。
竜馬にはほとんど関係ないのにやたら細かく描写されていて笑った記憶がw(全く関係ないわけじゃないけどね)
山崎ルートシリーズとは別に、SSという形ならそんな展開も面白そうだと思いました(笑)
なんやかんや理由付けて千鶴ちゃんと潜伏作戦・・・イイ!
(ただ、それが史実なら、四国屋の方に人数を割いた事に辻褄が合わないので創作の可能性大だそうです。確かにそうだよな)

余裕があれば、潜伏作戦版も書いてみたいです(笑)
あ、タイトルについて何も書いていませんでしたね。
たんぽぽの花言葉には「真心の愛」という意味もあるそうで。
二人の出会い編みたいなものなので、なんか真心の愛になればぁとか思って付けました。作中に「食用」という可愛さの欠片もない形ですが、たんぽぽ出てきますし(爆)
「いつかはたんぽぽの言葉のように」の方が的確だとは思うのですが、音が悪かったので「いつかはたんぽぽの名のように」になりました。「菜のように」とも悩んだけどw
タイトルはぶっちゃけテキトーに付けちゃいました。すみません(汗)
 

 

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