「これは契約よ」
千鶴ちゃんを守るための……
そう、これは千鶴ちゃんを守るための契約なのだ……
そうであるはずなのに、この罪悪感は何なのだろう……
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京でついに薩長と幕軍が刃を交えた。
……刃というのはもう相応しくないのかもしれない。
外国製の近代兵器を駆使する薩長軍に旧式武器で戦う応戦する幕軍。
薩長軍の士気の高さもあり、当初、数で勝り優位に立っていた幕軍はあっという間に窮地に立たされてしまった。
千鶴ちゃんが身を寄せる、新選組もその動乱に巻き込まれていた。
混乱に乗じて、風間が千鶴ちゃんを連れ去ろうとしている。
情報を掴んだ私達は、風間を止めるため、戦乱の京を駆けた。そしてようやくその男、金髪の男鬼・風間千景と相対した。
過去に数回、面識はあったものの、真正面から向き合うのはこれが初めてだった。
とはいえ、隠密のお菊から風間の動向は毎日のように聞かされていたし、何より『権力の為に千鶴ちゃんを得ようとする非道な者』という認識から、まるでずっと前からあの鬼を知っているかのような心境になっていた。
「千鶴ちゃんには想い人がいるのよ!千鶴ちゃんは私の……私の大事な友達なの!彼女の幸せを奪うのはやめてちょうだい!」
「幸せを奪う、だと?雪村の正統な血筋を持つ女鬼が人間と結ばれる方が不幸であろう」
「千鶴ちゃんは鬼として生きて行くことを望んでいない!彼女に変なことを吹き込まないで!」
「変なこと?鬼が鬼として生まれことに誇りを持つことが間違っているとでも言う気か?鬼なら鬼として誇りを持って生きればいいことだろ」
「ほこ、り……?」
風間は不思議そうに顔を歪めながら、至極当然のように言い放った。
「なんだ、お前は鬼に生まれたことを誇りには思っていないのか?」
「当然じゃない!……だって……!」
「解せぬな。人間など哀れなでちっぽけな生き物だ。そんなものに憧れるとは。ましてや純血の八瀬の姫が、聞いて呆れる」
私は言葉を継げなくなった。鬼として生まれたことが誇りだと、そう信じて疑わない男鬼が目の前にいた。鬼なんて忌むべき存在。鬼として生まれたことに嫌悪しか抱いていなかった私には、目の前の男――風間千景が言った言葉は……
「っ……」
「何故泣く……?」
「うるさいわね!」
「なんだと?」
暫くして、涙が引いた私は、風間を睨みつけるように、叫んだ。
「風間千景!これは契約よ!私がアンタの血を引いた子供を産んであげるわ。その代わり、雪村千鶴からは手を引きなさい!」
「まあ、良かろう。お前も血筋には申し分ない。不遜な態度は気に食わぬが、雪村の女鬼からは手を引いてやろう」
「そう。契約成立ね。ならさっさと郷に戻りなさい」
「それは出来ぬな」
「なんですって!?」
「俺は新選組を追わねばならぬからな」
「何を言っているの!?アナタは薩摩への恩返しは終えたんでしょ?どうして新選組を追う必要があるというの!?」
「あの土方とかいう人間には借りがあるからな。鬼の逆鱗に触れたアイツを許すわけにはいかぬ」
「土方って……副長の!?彼はただの人間じゃない!鬼のアナタが戦えばどうなるかは明白だわ!それに彼を失えば新選組は瓦解する。そんな千鶴ちゃんを苦しめるようなこと、許すわけにはいかないわ!」
「お前の許可などいらぬ。アイツを殺したらお前を迎えに行ってやろう。お前は京で大人しくしているのだな」
風間はそう言い捨てると、姿を消した。
数日後――
「貴様は俺に意見するつもりか?」
江戸に続く道の起点・三条大橋で私は待ち構えていた。
風間は心底呆れたようで、はぁっとため息を吐き、そう言った。
「当たり前よ!そんなの見逃せるわけがないわ!それに口のきき方に気をつけなさい。私は鈴鹿御前の血を引く古き京の鬼。西の田舎鬼が、己が立場を弁えなさい!」
私が毅然と言い放つと、風間はまるで新しい玩具でも見つけたかのように笑みをこぼした。
「ふん、随分な言い方だな。先日まで、鬼の血筋を忌み嫌っていたお前が『立場を弁えろ』とは」
「な!」
「鬼としての自覚が出てきたか。いい傾向だ。俺が戻ってくるまで花嫁修業でもしていろ」
「ふざけないでちょうだい!アンタを江戸には行かせないわよ!」
「せっかく少しは見直してやったというのに。お前にはまだ鬼としての自覚が足りんな」
「どーゆーことよ!」
「……土方と戦わねばならぬ。これはアイツとした約束だ。鬼は一度した約束は決して破りはしない。それが鬼の誇りだ」
「……そんなの、横暴だわ!」
「アイツも俺を殺す気だそうだ。ひ弱な存在で大それたことを言う。しかしアイツが望むというのなら、その相手をしてやるのが道理であろう」
風間は何も疑うことなく、自分の心の底から出たであろう言葉、風間の中の正義を口にする。その言葉はあまりにも力強くて……それが正しいと。正しくないはずがないと。風間はそう揺ぎ無く信じているのだ。
「一度した約束は守る。……これは人間どもの『武士道』というのにも共通するらしいからな。脆弱な存在が、もはや阿呆としか言いようがない」
「分かった。私にはアンタを止めることはできそうにないわね」
「ふん、当たり前だ」
「だけど!私もアンタに付いて行くわよ」
「何?」
「ひ、姫様!?」
お菊は信じられないと大きく目を見開いた。当たり前か。風間の子供を産むという契約を決意した時にも、お菊は大きな衝撃を受けたようで、事態を飲み込んだ後、嘆き悲しんでいた。
そんな風間にまだ私は振り回されている。きっとお菊はそう思っているんだろうな。
でも、私の口が閉じることはなかった。
「アンタは千鶴ちゃんから手を引くと言ったはず。もし、アンタが果たす『約束』が千鶴ちゃんに危害を与えるのなら私が全力で止めるわ」
私は口実が欲しかっただけなのかもしれない。
だって、風間の目的は土方さんと戦うこと、すなわち土方さんを倒す――殺すことだ。
その約束はどう考えても千鶴ちゃんを悲しませること。許せるはずがない。
人間の土方さんが、本気を出した鬼の風間に勝つとはやはり思えないし、たとえ勝てたとしても大怪我は必至。結局、千鶴ちゃんを悲しませることに変わりはない。
でも私は見たいと思った。鬼であることを『誇り』であると言い切った風間の生き様を。
ただ、ついて行きたいと思った、自分とは違う生き方を――
なんか中途半端ですが、力尽きたので・・・(オイ)
しかも一章を飛ばして、二章UPってどーゆーことですかw
一章には千姫と千鶴の友情みたいな話が入るのですが、先に二章が書き終わってしまったので順番無視でUPていう・・・すみません。
でも大体随想録やアニメと同じ感じです。お団子屋行ったり、おまんじゅう食べたり。その中で千鶴には好きな人がいて、風間が千鶴を狙っていて~と相談を受けたりして、女同士の友情を深めるっというのが一章の内容です。
ということで、「山崎×千鶴」以上に需要が少ないと思われる「風間×千姫」です。
某ルートを攻略中、思わずツボってしまったケンカップルです。
千姫は千鶴以上にツンデレルートになりそうw
千鶴が好きなのは誰なのか。明確にはしていません。
基本的にどのルートでも成り立つようなお話にしました。
小説にも、SSにすらなってない酷い状態ですが、マイナーのマイナーな風姫ファンが増えてほしい、の一心で書きました。需要があれば、描き切れなかったエピソード(一章や江戸に着いてからの話)をプラスした、もう少し小説として体裁を整えたものを再UPできればいいなとか思ってます。
「風姫が好きだ!」「駄文読んだらこの二人が気になった!」「鬼万歳!」という方は是非私と語り合いましょう!(笑)
「不知火×天霧を書け!」等々、リクエストがございましたらお申し付けください。
・・・・・・いや、書かないよ?不知火×天霧なんて・・・ジョークだよ?リク受付はマジですが(笑)
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