PHASE-1 

 

 

 

 

 

ZAFT新造艦ミネルバの進水式。
これを隠れ蓑に、アーモリーワンではZAFT最高評議会議長ギルバート・デュランダルとオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハの極秘会談が行われていた。
しかし、地球軍により突然の襲撃を受け、急遽会談は中止し、ギルバートとカガリ、そして護衛のアレックス・ディノはミネルバに乗り込むことになった。
進水式を済ませる事もなく発進したミネルバ。
襲撃部隊を追撃するも、新たな報が齎らされた。

ユニウスセブンが地球に落下しようとしていると―――

 

 


ギルバートそしてカガリ達は、艦長室へと通されていた。

「アスハ代表。こんな時に何なのですが、先ほどの会談で言い損ねた話があるのですが、少しよろしいでしょうか?」
「話?」
「聞くところによると、シーゲル・クライン元プラント最高評議会議長のご令嬢であり、先の大戦で停戦へと導いた英雄であられるラクス・クライン嬢は、現在オーブにいると聞き及んでおります」
「な!」
「また、私もそれが自然な流れだと思っています」
ギルバートは一瞬、アレックスという偽名を使う護衛、アスランに視線を送る。
カガリはその視線には気付いておらず、後ろめたそうに口を開く。
「そのようなことは……」
「私もクライン元議長の考えに賛同、遺志を受け継ぐ者。ですから一度、ラクス嬢とこれからのプラント、いやこれからの世界について意見を交わしてみたいのです。シーゲル氏の遺志を継いで戦われた彼女と」
「……」
「これには彼女個人の意志もあり、表だって話はできない事情は察します。ですがもし、『アスハ代表がラクス・クラインの所在を知っている』のであれば、是非この件は伝えて頂きたいのです」


そのような会話がなされている事を知らないブリッジでは、ユニウスセブン落下阻止の為に皆忙しく準備をしていた。
ユニウスセブンの破砕には成功したものの、大気圏で燃え尽きなかった破片が地球全土に降り注いだ。
そうしてカガリ達を乗せたミネルバはオーブに到着した。


+++

首長室から疲れた顔をしたカガリの前に二つの影が現れた。
「カガリ、アスランお帰り。大変だったね、無事帰ってきて安心したよ」
「キラ!ラクス!」
カガリは思わずキラに飛びつく。
「ちょっとカガリ……」
キラが少し戸惑ったように笑うと「すまん!」とカガリはすぐバッと離れた。

そんな様子を見ていたアスランは口を開いた。
「キラ、ちょっと用事があるんだ、付き合ってくれるか?」
「何?アスラン」
「いいからいいから」
アスランはキラの背中を押し、その場を離れた。
完全に二人の気配が消えた頃、女二人、沈黙が続いていた場にカガリが言葉を発した。
「ラクス……その、話があるんだが……」
「キラには聞かせられない話、ですか?」
ラクスは笑顔でそう言った。
いきなり核心を突かれたカガリは少し動揺しながら、言葉を切りだした。
「ああ、その……」
カガリは少し後ろめたそうに、ミネルバでデュランダルに言われた事を伝えた。

 


「デュランダル議長がそのようなことを……」
「せっかく、表舞台から身を引いて穏やかな日々を送っているのに……無理して会う必要はないと思う。ただ、やはりラクスに話しておいた方がいいかと思って……」
「いいですわ。私は是非、お会いしてみたいですわ」
「ラクス!?」
「私が、父が全て正しいわけではありません。してきたことが正しかったのかも、まだ答えが見つかりません。ただ、私とお話ししたいと仰ってくれているのなら、私は是非、デュランダル議長とお話ししてみたいですわ」
「そうか。実を言うと私もあの議長はなかなか誠実そうに見えた。ラクスと議長が会うのはなかなかいいことなんじゃないかなっとも思っていてな……」
「ええ」
「ただ、やはりキラには伝えない方がいいよな?アイツ、やっと最近また笑えるようになったばかりだし。一番辛い思いをしているはずだから、もう少しそっとしてやらないと」
「そうですわね。でもこのこと、アスランも知っているのでしょう?」
「ああ」
「それではもう、今頃……」
「え?」

 

数時間後。
キラとアスランがカガリの自邸へとやってきた。
キラの瞳は微かに火を灯し、アスランの瞳は何か諦めたような色をしていた。

キラはカガリとラクスの姿を見つけるや否や、開口一番にこう言った。
「ラクスがプラントに行くなら、僕も行くよ!」
「キラ!でもお前……」
カガリが戸惑っていると、後ろでラクスが笑みを浮かべていた。
「ふふ、やはり言った通りでしょ?カガリさん。アスランは嘘がつけないのですよ」
「すまない……」
さすが元婚約者。アスランのことをよく知っている、などと冷静に分析しそうになったカガリだが、今はそんなことを考えている時ではない事を思い出し、ラクスに視線を送る。

「でもよろしいのですか?これは私個人の問題。キラ、あなたを巻き込むのは……」
「そうだ、キラ。ボディーガードなら俺がやるから。お前は休んでていいんだぞ」
ここにいる者全て、キラが再び戦いに、政治に巻き込ませたくないと考えていた。先の大戦で多くの者を失ったキラは一時期、希望も何もない死んだような瞳をしていた。そして与えられた幸せな時間が余計キラに罪悪感を負わせる事になったようだ。終戦から1年以上が経ち、ようやくこの生活を受け入れ、元のキラに戻ってきたのだ。
そんなギリギリの状態のはずなのに、キラの決意は固かった。
「僕だっていつまでも逃げてはいられないよ。カガリもアスランも頑張ってて、ラクスも……僕もやれることをしなくちゃいけないんだって思うんだ」
「キラ……」
「ありがとう、キラ。では一緒に行きましょう」
「俺も行くぞ」
「アスラン?」
「キラじゃボディーガードとしては心許無いからな」

 

+++

「ラクス嬢。ようこそプラントへ」

ラクスはデュランダル議長と対面していた。

「それにアレックス君、君も元気そうでなによりだ」
「いえ……」
アスランは小さく答えた。

 

「ユニウスセブンの落下、そして先刻の地球軍の核攻撃。今、世界はまた混乱しようとしています。地球軍は市民を煽り、憎しみを生み出そうとしている。そして我がプラントもまた、先の攻撃で過激派が市民を先導しようとしている。ラクス・クライン。プラントにはあなたの力が必要なのです。どうか私に協力していただけないでしょう?」
「お気持ちは分かります。しかし私は……歌を歌うことしかできません」
それを痛感したのが先の大戦。本当の戦場で彼女自身が見出した答えだった。
しかしデュランダルは首を横に振り、言葉を紡ぐ。
「あなたの歌、そして言葉は憎しみにとらわれた者達を癒し、鎮めてくれる。これは誰にでもできることではない。あなたにしかできないことです」
「私にしかできないことと仰っていただけることは光栄に思います。これは私のするべき役目なのかもしれません。しかし私は……やはり再び歌を紡ぎたいとはどうしても思えないのです」
「そうですか。いやはや、残念ではありますが、貴女が想いを同じくする者だと改めて思う事が出来ました。遠路はるばる、ありがとうございました、ラクス嬢」
「いえ、お話しかできず、申し訳ありませんでした……」

ラクスがその場を立ち去ろうとした時、アスランは一歩足を踏み出し、議長に懇願した。
「あ、あの議長……!」
「何だい?アレックス君」
「私のような身分の者が分不相応なこととは思いますが、私は是非議長とゆっくりお話がしたい。少しお時間を頂けないでしょうか?」
「いや、私も君と話したいと思っていたのだよ。ユニウスセブンの時は混乱に巻き込まれて話せなかったからね。なぁ、君、スケジュールはどうだい?なんとか時間はつくれないものかね?」
尋ねられた秘書は少し戸惑いながらも、「明日の夕刻なら」と答えた。
「それでいいかね?アレックス君」
「はい!ありがとうございます!」
「ラクス嬢達は、今晩は手配させているホテルでお休み下さい」
デュランダルはニコっと笑いながらその場を後にした。


翌日、アスランはデュランダルと密会することとなった。
アスランは改めて自分が「アスラン・ザラ」だと名乗り、気がつけば自分の苦悩をデュランダルにぶつけていた。
そんなアスランにデュランダルはモニターを映し、彼女の姿を映す。
薄紅色の髪を流し、歌う、「ラクス・クライン」の姿を。

「笑ってくれて構わんよ。ただ、彼女の存在はあまりに大きいのだ」
デュランダルは深くため息を吐く。
「こんな市民を騙すような真似はしたくない。だが彼女には断られてしまったからね。こんなことをしなくては市民を導けない自分を情けなく思うよ」
「議長……」


+++

一方、ラクスとキラはホテルでアスランの帰りを待っていた。
「アスラン遅いね〜」
「そうですわね」
そんな会話を何度繰り返した頃だろうか。突然窓ガラスが割れ、銃声が響いた。
照明は消え、部屋は一気に暗闇となった。
「な、何なんですかあなた達は!?」
「っきゃ!」
「ラクス!!」
暗闇に薄ら見える影は、ラクスの腕を捻り上げていた。
その刹那、また新たな影が現れた。

「はいはい!ラクス様に手を出す奴は私が許さないよ!」
この声と共に、バタリと音を立てていくつかの影が消えた。
「ラクス様!こっちです!」
何者か分からない。ただ、どうやら敵ではなさそう。そう判断したキラはラクスの腕を引き、その影についていった。
「とにかく行こう!」


影の正体はホテルの外に出ると、ZAFTの軍服をまとう女性であることが分かった。
「ここまで来れば大丈夫。申し訳ないですが、至急オーブに戻っていただけませんか?」
「でも、アスランが!」
「狙いはラクス様です。アスランさんには危害は及ばないはずだ」
「ラクスが?」
「これを逃しちゃもうオーブに戻ることができなくなる。詳しい話はシャトルで。とにかく乗ってください」
でも……とキラが躊躇していると、後ろに付いていた男に背を押され、半ば無理矢理シャトルへと乗せられてしまった。


「あなた達は一体……」
「手荒な真似をして申し訳ありません。私はヒルダ。いわゆる旧クライン派のザフト兵ですよ」
「クライン派……」
「諜報部の仲間が、何者かがラクス様を狙っているという情報を嗅ぎつけまして。駆けつけた次第ですよ」
「なぜ、ラクスが……それに誰が……」
キラの言葉にヒルダは首をかしげる。
「さぁ、そこまでは。ただ、クライン派の平和協調主義に反対するザラ派勢力の行動が活発なのも事実でね。議長も手を焼かれている。この間のユニウスセブンの事件もザラ派の仕業ですよ」
「ザラ……」
キラはその名を小さく呟いた。
ザラ……すなわち先の戦いのZAFTの指揮官、パトリック・ザラ。アスランの父を指している言葉だった。

シャトルは急発進し、オーブへと向かった。


+++

一方、アスランは密会を終え、ホテルに帰ろうとした所、部屋に兵士が駆け込み、デュランダルに耳打ちで何かを報告していた。その様子が気になったアスランは足を止め、しばし二人を見ていると、再びデュランダルに声を掛けられた。
「ラクス嬢ならもうお帰りになられたそうだ」
「え?」
「急用ができたとかで。連れの彼も一緒にオーブに戻ったそうだ」
「急用?」
「せっかくの機会だから、ラクス嬢もご一緒に食事でもと……君と個人的な話もしてみたいと思っていたのだが、これでは難しそうかな。ただ、いかんせん当分はこのような時間は取れなさそうでね」
「いえ、彼が付いているのなら大丈夫でしょう。せっかくのお誘いです、私も議長ともう少し話をしてみたいと」
「そうか。君もゆっくりプラントを見るのは久方ぶりだろう。確かに戦後プラントは混乱したが、今は落ち着きを取り戻している。是非その復興ぶりを見てくれたまえ」
「はい」





■あとがきと云う名の言い訳
お待たせいたしました!
6年お待ち下さった方、たまたま迷い込んで今日初めて読んだ方、ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。

第一話(PHASE−1)はユニウスセブン落下後に、ラクスがデュランダル議長と会談するっというお話でした。 本編では「ザフト兵にラクスが狙われた!偽物がいる!議長を信用できない!」というのがキラ達の主張でしたが、 実際に話したこともない人物をいきなり疑うのも・・・
いえ、実際にはこんな会談なんて出来る方が難しいと思うのですが、フィクションなんだからラクスと議長一騎討ちがあっても良かったんじゃないかなと思い、こんな話を書いてみました。

序盤は結構TVアニメ本編通りの展開なので、本編と同展開の場合は「あらすじ」という形で進めていければと思います。
後半(アニメだと24話辺り)からどんどん話は分岐していきます。
あくまで私の「こうだったら良かったな!」を詰め込んだ自己満足話なんですが、もし皆さまにも一緒に楽しんで頂けたらいいなっの一心で書いています。
構想から6年も経つのに未だに見切り発車感が拭えない拙い話ですが、続きを楽しみにして頂けたら幸いです。
感想なんか頂けるとさらに舞い上がって小躍りします。
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次回は「アスラン出撃!飛び立てセイバー!!」な内容になる予定です。お楽しみに!

 

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