千鶴「行きます、薫さんと。私の過去を知りたい」
私は何故か付いて行かなくてはならない気がした。
もちろん、薫さんと双子だと言われ、頭が混乱していることもあるだろ。
しかし、私の心の中で何か渦巻いている。今まで感じた事がないような醜い感情。
彼女の先にはこの渦巻く感情の真実が見えるのではないか。私は「知りたい」と思ってしまった。自分の事、薫さんの事。
薫「ありがとう。では付いてきて……」
暫く歩き続けたが、薫さんの目指す村には一向に着かない。あとどれほどの距離があるのだろう?あまり仙台から離れれば、土方さん達に迷惑を掛けてしまうかもしれない。
千鶴「あの、薫さん?一体どこまで行くのですか?」
薫「そんな事、決まっているだろ?」
薫さんの声が突然低くなった。
千鶴「か、薫さん?」
薫「お前は本当に俺の事を一片も覚えていないんだね。お前は俺の妹。そして俺はお前の双子の兄だよ」
千鶴「性別を偽って…!?」
薫「それはお互いさまじゃないか」
千鶴「それで大事な話って何なのですか」
私は恐れを感じ、小太刀に手を掛ける。
薫「ああ、その怯えた顔。最高だよ。お前の幸せ顔も傑作だけどね」
千鶴「何をするつもりなの、薫さん」
薫「この期に及んで『薫さん』か、笑っちゃうね、おめでたくて。ああ、お前なんか死んでしまえばいいんだ、俺が今まで味わった苦痛、妹のお前にも共有してもらわなくちゃね!」
薫さんの氷のような冷たい笑みに私は体を強張らせる。
怖い……という感情が私の体を支配する。そんな私に救いの声が聞こえた。
山崎「雪村君!何をしている!」
薫「っち、邪魔者か」
山崎さんが駆け寄ってくる。
山崎「貴様は何者だ!」
薫「俺?俺は雪村薫。千鶴の双子の兄だよ」
山崎「双子!?」
薫「よくここが分かったね」
山崎「足跡を残しておくとは愚かだな」
薫「ふーん、足跡か。君、結構優秀だね。しかし、せっかくの興が削がれてしまったじゃないか。でもいいね、お前のその目。名前はなんていうの?」
山崎「お前に答える名などない」
薫「ふーんそう、じゃあまず君から消えてもらうね!」
薫は刀を振り上げ、山崎さんへ突進していった。山崎さんは羅刹となり、応戦した。
山崎さんは短刀を抜き、薫の刀を防ぐ。しかし間髪入れず薫の斬撃が繰り出される。山崎さんは防戦一方だった。
羅刹になったとはいえ、鬼の薫と対峙するには実力の差があった。
なんとかしなければ。気がついた時には既に鞘から小太刀が抜かれ、薫に刃を向けていた。
すると薫は、後ろに飛び退け、山崎さんと距離を作った。
薫「やっぱりお前には鬼の自覚なんかないんだな。人間と一緒に居るからおかしくなってしまったんだ。憎くないのか、俺達の家族を殺した人間が。俺達を引き離した奴らを」
千鶴「私には分からない。だけど、薫、お願い、山崎さんをこれ以上苦しめないで!」
薫「はっはっは。人間を苦しめないで?傑作じゃないか。そうだ、そんなにこの男が大事なら一緒にさせてやるよ。あの世でね!」
千鶴「やぁぁぁぁぁぁ!!」
私は掛け声とともに薫に向け刃を奮う。
山崎「やめろ、雪村君!」
しかし薫はいとも簡単に私の手元から小太刀を奪い取り、腕で私の首を絡めた。そして先程まで私の手にあった小太刀が首に当てられる。ひんやりと冷たい刃の感触が、否が応でも恐怖心を駆り立てる。
山崎「彼女から離れろ!」
薫「そんな強気な事言える立場だと思ってるの?」
山崎「くっ!」
薫「せっかく助けにきてくれたのに、お前のせいで彼が可愛そうじゃないか?なぁ、千鶴」
千鶴「山崎さん!」
山崎「雪村君!くそっ!」
短刀に添えられた山崎さんの指がそれまで以上に強く力が込められる。
薫「千鶴を助けたい?そうだね、君の武器……ああ、隠してあるものもね、それを出してもらおうか。そうしたら千鶴を助けてやってもいいよ?」
山崎「……雪村君だけは助けてくれるんだな?」
薫「ああ、仕方ないね、約束するよ」
山崎さんは黙り込んだ。今取るべき最善の策を考えている。きっとそうだ。
常に冷静な山崎さんならきっと、この場を切り抜ける策を考え付くはず。
私は心のどこかで楽観視していたのかもしれない。これまで幾度となく死線を掻い潜ってきたのだから……と。
千鶴「山崎さん!?何を!?」
暫くの沈黙の後、山崎さんは手にしていた短刀と、服に隠してあった暗器をバラバラと音を立てながら落とし始めた。
山崎「雪村君……最後まで任務を全うできなくてすまなかった」
千鶴「や、まざきさん……?」
薫「なかなか素直じゃないか。ひねくれ者の沖田より気に入ったよ」
千鶴「山崎さん、違いますよね?やだ、死なないで!」
薫「妹の懇願だ。せめて君は楽に殺してあげるよ」
薫は山崎さんを憐れむかのような表情をしながら笑っていた。
山崎「すまない……千鶴……」
千鶴「山崎さん!!!」
グサっと丸腰の山崎さんの胸を薫の太刀が貫いた。
その太刀を抜くと、山崎さんは前に倒れた。白い髪は元の黒色に戻り、それ以上動くことはなかった。
千鶴「山崎さん……山崎さん……いや!」
薫「さて、可愛い妹の願いだ。お前も一緒に送ってやるよ」
千鶴「薫!?それじゃ山崎さんは……!」
山崎さんは何のために……?
薫「僕は嘘つきだからね。それにお前も離れ離れになるよりはずっと一緒にいたいんだろ?向こうで人間と一緒に楽しんでくればいい。じゃあね、可愛い俺の千鶴」
その言葉と共に私の視界は真っ暗になった。何も見えない、何も聞こえない。
山崎さんはどこにいるの?
薄れゆく意識の中で私は必死に山崎さんを探していた。しかし見つけることはできなかった。そして私は完全に意識を失った。
GAME OVER
薫をしゃべり出させたら止まらなくなってしまった……本編より酷いキャラになってしまったかもしれません。本当に申し訳ないです。でも楽しかったです(コラ)
急展開過ぎすみません。薫の発言も色々矛盾してるなオイ。山崎さんも諦めるの早すぎる。選択肢も簡単すぎたなと反省中。
ゲームをやると、雪村の地は会津から少し離れた所だと推定できるのですが、話の都合上、山崎ルートでは仙台から少し離れた所にさせていただきました。
会津と仙台の間ってことで!(苦笑)
最後の最後だけ「雪村君」ではなく「千鶴」呼びにしてみました。やっぱ、ずーと「雪村君」でしたからね。千鶴呼びはどのキャラよりも萌える!
ゲームオーバーではないルートではまだまだ「雪村君」呼びです。どこまで焦らすつもりだ山崎さん。
ということで、GAME OVERです。「選択肢」に戻るから別の選択肢をお選びください。