第四章「戦いと選択」 其の弐

 

 

 山崎「斎藤組長!」
斎藤「山崎君。どうした」


ようやく三番組の姿が見えた。今まさに戦っている最中。既に負傷している隊士も数人いた。
いつもより息が上がっているように見える斎藤さんだが、対応は至って冷静だった。

山崎「奉行所が襲撃されました。現在は山南総長が応戦していますが、敵の数は圧倒的です。三番組に援護をお願いします」
斎藤「分かった。しかしこの敵を倒さないと素直に帰させてはくれないようだ」
千鶴「あの人は……!」
天霧九寿!薩摩に手を貸している鬼だ。

斎藤「こ奴を倒したら至急援護に向かう。山崎君達は先に奉行所に戻ってくれ」
山崎「承知しました。戻るぞ雪村君」
千鶴「でも、私……!」
足が…これ以上山崎さんの邪魔をしたくない。
山崎「最初は三番組に君の護衛を頼むつもりだったが、相手が鬼とあっては、ここも激戦になる。そんな所に君を置いて行くわけにはいかない」
千鶴「……わかりました。急ぎましょう」
私は再び山崎さんの肩を借り、奉行所へと急いだ。

 

 

しかし、いざ戻ってみると、奉行所から少し離れた所に山南さんが隠れるように立っていた。

山南「山崎君、ここは撤退です」
山崎「撤退ですか!?」
山南「先程、奉行所に火が放たれました。ここを守るのはもう無理でしょう」
山崎「っく!」
千鶴「そんな!」
山南「君達はさっさと大坂へ向かいなさい」
千鶴「山南さんはどうされるおつもりなのですか!?」
山南「私は羅刹です。多少の怪我、火傷ぐらいすぐ治ります。君達が逃げる時間稼ぎくらいはできるはずです」
千鶴「そんな!山南さん!」
山崎「……雪村君、行くぞ!」
千鶴「山崎さん!」
山崎さんは私の腕を掴み、走りだした。
足の痛みなど忘れて、私はひたすら走った。

 

 

大坂に向かうべく、私達は森の中を走っていた。
大坂城まであと少しという所だった。
鈍い音が鳴り響いた。

山崎「危ない!」

その刹那、山崎さんの声が木霊し、気づいた時には私は突き飛ばされ地面に倒れていた。
何が起きたのか。
山崎「うがっ!」
千鶴「山崎さん?山崎さん!?」
山崎さんの周りには血だまりができていた。その姿は昨晩の出来事を彷彿とさせた。
何が起きたのか、その状態を見れば分かる。山崎さんは銃で撃たれたのだ。

 

敵に気づかれないよう、草むらの茂みに山崎さんを連れて行く。

山崎「もう、大坂城は、見えているだろう?……すまないがここからは一人で行ってくれ」
千鶴「そんな!山崎さんを置いて行くなんて!」
山崎「俺は、もう動けないんだ、頼む先に行ってくれ」

千鶴「……分かりました。大坂城に行って、誰か人を呼んできます!だからそれまでどうか!」
山崎「ありがとう。無茶だけはしないでくれ」

私は無我夢中で走り続けた。もう既に大坂城の天守閣は見えている。
あと少し。あと少しで幕軍、味方の人に会えるはず。
どれくらい走っただろうか。ようやく城門が見えてきた時、不意に声が掛けられた。
 



 

???「千鶴ちゃん!?」
???「千鶴!?良かったお前無事だったのか!」

千鶴「永倉さん、原田さん!」
知っている顔に出会えて私は少し安堵した。この二人は特に危険な場所で戦っていたのだから。

千鶴「や、山崎さんが、銃で撃たれて。あの森を少し入った所で助けを待っています。誰か、呼んで下さい、お願いします!」
永倉「山崎が!?分かった俺が行く。左之は土方さんへの連絡を頼む」
原田「おう任せとけ。千鶴はここにいろよ」
千鶴「何故ですか!山崎さんが!」
原田「落ち着け。女のお前にゃ山崎を連れて帰る事は出来ねぇ。敵兵が現れても戦う術がない。お前が行っても邪魔になるだけだ」
千鶴「それは、分かってますけど……」

私はポロポロと抑えていた涙を流してしまった。
原田「ああ、泣くなよ。確かに俺もちょっと言い方がキツかったかもしれねぇーけどよ。山崎の事を思うならお前はここでじっとしていろ」
千鶴「はい」

数刻後、永倉さん達のお陰で、山崎さんが大坂城に運ばれた。
そこには斎藤さんを始めとする三番組の隊士達もいた。きっと途中で合流したのだろう。
山崎さんの背中には銃創が出来ていて、とても危険な状態だと告げられた。

斎藤「千鶴、すまぬ。加勢に間に合わなかった、全て俺の不甲斐なさが招いたことだ」
千鶴「斎藤さんのせいなんかじゃありません。今はただ、山崎さんの無事を祈るだけです」
斎藤「そうだな。……ただこの戦で負傷した者も多い。松本先生だけでは診きれないだろう。山崎君が倒れた以上、医術に明るいのはお前しかいない。俺も微力ながら手伝う。隊士の手当てに付きあってはくれぬか?」
千鶴「はい、山崎さんの代わりを出来る限り全うします!」
斎藤「頼む」

山崎さんは弾の当たり所が悪かったらしく、油断は許さない状態が続いた。
 

 

 

この回、すごく悩みました。何にって、斎藤さんの千鶴の呼び方。
当初は「雪村」で書いていたのですが、ルートの中では斎藤さんってかなり初期の頃から千鶴って呼んでいるんですよね。蛤御門で「千鶴」呼びしているので。
そして、今後の展開を考えると、巡察とか長年一緒に過ごす事が多かったのだから「千鶴」でいいかっという結論にいたりました(笑)
山崎ルートで斎藤さんも頑張って頂きますよ。キャラ崩壊しないしないよう気を付けるけど、キャラ崩壊してたらごめんなさい。全国の斎藤ファンの方に土下座したい。でも私も斎藤ファンなんですけどね(笑)
 

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