第四章「戦いと選択」 其の参

 

 

その夜、山南さんや夜襲に出ていた平助君達も大坂城にやってきた。
しかし、彼らの後ろを歩く隊士の数の少なさに私は息をのむ。

山南「力及ばず申し訳ない。井上さんのことも……」

井上さんのお腹には大きな銃創があり、ほぼ即死だったのではないかと山南さんは言った。
私はその瞬間の光景が頭から離れず、ただ涙を流すだけだった。

土方「とにかく山南さんが無事だったことが何よりだ。平助も」
藤堂「でも、俺も夜襲には失敗しちまったし……何より多くの隊士を死なせちまった」

土方「羅刹隊が、か?」
山南「彼らはいずれも「銀の弾丸」で撃たれていました」
土方「銀の弾丸?」
藤堂「ああ、銀の弾には治癒力を弱める力があるんじゃないかって、山南さんと話してたんだ。俺も左足に一発掠ったんだけど、ほら、未だに傷跡が残ってる」

掠ったという言葉通り、さほど大きい傷には見えない。しかし傷跡はしっかり残っている。
羅刹であるならこれぐらいの傷、すぐ消えてしまうはずなのに。

山南「向こうにも、我々羅刹の事を良く知る人物がいるようですね」
土方「……綱道さんか……」
千鶴「やはり父様が薩長側にいるというのは本当なのでしょうか?今でも変若水の研究を続けているのでしょうか?」
藤堂「千鶴……で、でも、綱道さんは脅されて手伝わされているのかもしれないし。少なくとも自ら望んで研究をしてるはずないって。そんな親だったらお前みたいな純粋な娘には育たねぇって!」
千鶴「平助君、ありがとう。私もう少し父様を信じてみるよ」

そんな会話が終わり、皆が部屋に戻る時間。

山崎さんの容体が気になって、山崎さんの運び込まれた部屋に向かった。
もう遅い時間だというのに、何やら微かに部屋から声が聞こえる。私は恐る恐る部屋に近づき、耳を傍立てた。

沖田「山崎君、僕ね、君が嫌いなんだよ。知ってると思うけどさ」
山崎「……っ……」

沖田さんだ。
当初、奉行所に運び込まれた彼だが、大坂城で篭城し戦うことを念頭に大坂城へと移送されていた。
傷からの熱に冒され苦しむ山崎さんの横で沖田さんがしゃべっていた。
本人に聞こえているのかどうかも分からない状態で、まるで独り言のように。

沖田「君はまた、僕を怒らせる気なの?千鶴ちゃんを泣かしたら僕、許さないよ?だからさ、君は生きなきゃいけないんだよ。僕じゃ千鶴ちゃんを守ってあげられないんだから……。」
山崎「……ぐっ……」
沖田「じゃーね、君からもらった苦ーい薬、飲まないといけないから」
沖田さんはそう言い残し、手をひらひらと仰ぎながら部屋を出て行った。


千鶴(沖田さん……)
廊下に出てきた沖田さんは急にピタリと足を止めた。

沖田「千鶴ちゃん、そこにいるんでしょ?」
千鶴「沖田さん!?気づいて……」
沖田「当たり前でしょ?今はもう歩く事さえ大変なんだけどね、僕はこれでも一番組の組長なんだよ。近藤さんの為に、いの一番に斬りかかるのが僕の役目なんだよ。そんな僕が千鶴ちゃんごときの気配に気づかないとでも思うの?」

一瞬、沖田さんの瞳が潤んだように見えた。紡がれる言葉もどこか弱々しくて、上づった声に聞こえた。

沖田「山崎君とケンカできないのはつまらないんだ。だから山崎君に死んでもらっちゃ困る。だから、ね?千鶴ちゃん、山崎君の事、よろしくね」
千鶴「沖田さん……」
沖田「じゃあね」

私が言葉を掛けるよりも素早く、沖田さんは私に背を向け、今度こそ自分の部屋へと戻って行った。その後ろ姿は、苛立ちと不安で背が押し潰されているように見えた。




驚いた事に、幕軍の総大将、徳川慶喜公は既に大坂を離れ、江戸に帰ってしまったという。
新選組も江戸へ戻る事を命令され、1月13日、富士山丸に乗り込んだ。

 

 

大阪奉行所と大坂城の地理的関係とか、かなり調べました。
でも明確な答えが出ませんでした(爆)
と、とりあえず、沖田さんも大坂城に来たってことで・・・いいよね?答えは聞いてない。
あと途中出てきた森とかもテキトーです。
当時の地図が手に入らなかったので。(大坂の陣の地図ならあったのだが 苦笑)

 

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