第六章「矛盾した想い」 其の壱

 

 

 

江戸に戻り、数日後。
幕府への報告を終え、屯所戻ってきた近藤さんに永倉さんは「話がしたい」と言い、土方さん、原田さんを交えての話し合いとなった。
そして出た結論は永倉さん・原田さんの離隊だった。

変若水を飲んだ山南さん、平助君。鳥羽伏見の戦いで亡くなった井上さん。肺の病で臥せっている沖田さん。そこに永倉さんと原田さんの離隊。新選組にとってこれほどの痛手は無かった。残りの幹部や監察方の方々は寝る暇も惜しんで働いていた。変若水を飲んだ山崎さんも激務をこなしていた。もう「羅刹だから…」という言い訳が聞かない状態であり、私からも「やめて下さい」とは言えなかった。

千鶴「山崎さん、お体、大丈夫ですか……?」
私は淹れてきたお茶を山崎さんの向かう文机に置く。
山崎「ああ大丈夫だ」

千鶴「あの!出過ぎた真似だと分かっていますが、もし私にも手伝えることがあれば手伝わせて下さい。今、山崎さんに「休んで下さい」なんて私には言えないです。でも、それでも少しでも休んでもらいたいんです。だから……!」
私は必死に訴えた。これ以上青い顔で作業する姿を見たくない。その一心で。

山崎「ありがとう。心配はいらないさ、これでも医学を齧っているんだ、自分の体調ぐらい自分で分かるさ」
千鶴「でも……!何か手伝わせて下さい!」
山崎「そうだな……、君がそこに座って笑っていてくれたら仕事も捗るかな」
千鶴「え?」
山崎「冗談だよ。ただ仕事自体を君には任せられないし、気持ちは嬉しいが……」

山崎さんが冗談を言うなんて……私は少し驚いてしまった。
しかし、ここで食い下がるわけにはいかない、私に何かできることはないのだろうか。必死に頭の中で思案を巡らした。
千鶴「な、なら!肩を揉んでもいいですか?あの、見るからに凝っているように見受けられて……」
山崎「そうだな、ちょうど肩に疲れが溜まっていた所だ。言葉に甘えて肩揉みを頼もうか」
千鶴「はい!」

 

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土方「っち、……このまま江戸に留まっていても埒が明かねぇか」

幕府中枢部は既に戦意を喪失しており、新政府軍に恭順姿勢をみせていた。
だが、将軍、慶喜公自ら謹慎し天子様に従う姿勢を見せているのに対し、新政府軍は徳川家に容赦のない制裁を加えていた。
これに黙っていられない者、藩は新政府軍に徹底抗戦の姿勢を見せていた。
土方さんが言った「江戸に留まっていても埒が明かない」というのも、東北の諸藩と合流し、戦うという決意の表れであった。

新選組は松本先生の知り合いの金子邸で一週間を過ごし、いざ会津へ向かうべく下総・流山に陣を構えた。
斎藤さんは隊士達を連れて、市川という所へ教練に出掛けている。
銃の扱い方などを学びに行っているそうだ。

土方「大方の荷物は揃ったな。後は崩れた陣形を幕府側と調整して立てなおす必要があるか」

私は江戸の屯所から運び込まれる荷物を片づける作業に追われていた。
慌ただしくとも、心穏やかな時。
戦いに身を投じていると、こんな些細な日常が愛おしく思える。

だがそんな穏やかな時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。



島田「土方さん!ここが囲まれています!」
土方「なんだと?新政府軍だとしても、いくらなんでも勘付かれるのが早すぎる、陣を張ったのは昨日だぞ!?」
近藤「うむ……」
近藤さんは何か考え込んでいるようで、低いうなり声をあげていた。
土方「しかも教練で隊士がいない時に……」
山崎「まさか内通者が……?」
千鶴「そんな!」

私は思わず声をあげてしまった。内通者だなんて、新選組隊士の中にそんな人がいるなんて信じたくない!

土方「とりあえず、山南さんと平助を叩き起こしてきてくれ」
島田「そ、それが……お二人の姿が見当たらないのです」
土方「な!?」
千鶴「お二人がいらっしゃらないって……それじゃ」
近藤「……内通者、とは思いたくないがな……」

土方「今からじゃ市川の斎藤達との合流は間に合わないか。とりあえず島田、山崎、千鶴。近藤さんを連れて会津に向かえ」
千鶴「それでは土方さんは!?」
土方「さすがにこの人数で捌ける数じゃねぇ。会津に行きゃ藩と合流して今度こそ喧嘩のやり直しができる。俺が時間を稼ぐ。近藤さんを頼む」


近藤「いや、トシも会津に向かってくれ。ここは俺がなんとかする」

その言葉で場の空気は一瞬にして変わった。


土方「近藤さん!?アンタ何を言ってんだ?アンタが逃げなきゃ何の意味もないじゃないか!」
山崎「その役目は俺が担います。俺は羅刹です。多少の怪我ならすぐ治る。俺が残った方が稼げる時間も増えるはずです。局長も副長も冷静な判断をして下さい」

だが、近藤さんの表情はぴくりとも変わらない。怖いほどまでに。
近藤「俺は今も冷静なつもりだよ。俺達は味方だと事情を説明しに行く。もちろん、近藤勇の名は伏せてな」
土方「近藤さん、薩長の連中がアンタの顔を知らないわけないだろ?自ら捕まりに行ってどうすんだよ!」
近藤「それを言ったらトシ、お前の方が顔を知られているだろうが」
山崎「ですから、俺が残ります。時間がありません、お二人は裏口から逃げて下さい」
島田「俺も残ります。お二人は……」

近藤「トシの頭は幕府軍が勝つためには絶対必要だ。島田君の能力はこれからの混戦でなくてはならない力。そして山崎君、君が羅刹になってまで生きようとしたのは何故だい?君にはしなくてはならない任務があると思ったからなのだろ?……なら俺が残るのが妥当じゃないか」
土方「何言ってんだよ。大将がやられたら戦は終わりじゃねーか!」

近藤「これは局長命令だ。お願いだ、俺にもう仲間が傷つけられる姿を見せないでくれ……」


土方「クソっ!島田!お前は市川に向かって教練に出ている隊士達を至急会津に向かわせろ。俺は山南さんと平助を探してくる。山崎、お前は千鶴と残りの隊士を連れて先に会津に行け」
山崎「何をおっしゃるのですか!?俺は羅刹なんですよ。当然ここで」
土方「いいから行けって言ってんだよ。それにな、まだ会津藩に根回しができてねぇんだよ。お前の監察能力がありゃ、あっちも俺達を受け入れる準備が出来るじゃねぇか。お前なら向こうの動きを見ながら交渉もできるだろ。今はどう戦況が動くか分からねぇからな。お前には新選組の命運が掛ってんだ。いいな!」
山崎「……承知しました」

土方「近藤さん。確かにここで戦うより投降した方が生き残る可能性は高いかもしれないな。……俺はアンタを助ける為に何だってする。嘆願書だって嫌になるぐらい書いてやる。だから最期まで諦めないでくれ。新選組は近藤さん、アンタの組織なんだからな」
近藤「大丈夫さ。とにかくお前も逃げろ。せっかく時間を稼ごうというのに、意味がなくなるだろ?」
土方「っく!」
近藤「すまないな、トシ。……新選組を頼んだぞ」
土方「近藤さん……!」
私達は屋敷の裏口から隠れるように、近藤さんはただ一人、表玄関から堂々とした態度で出て行った。

 

 

 

「確かにここで戦うより投降した方が生き残る可能性は高いかもしれないな」という土方さんのセリフの解説。
ゲームでは「トシ達を逃がすために投降する」と流れだったのですが、
私の記憶では、自刃しようとした近藤さんを土方さんがなんとか止めて、投降する事を進言した~みたいな流れだったような~というのもあったので、最終的には土方さんも投降了解の体で書かせていただきました。助命嘆願が聞き入れられことも無きにしも非ず、ですし。確かに勝機はこっちの方が高いこともなくはないのかなと(苦笑)というかアニメが神すぎてUPするのが嫌になった(苦笑)

あと、冒頭の江戸でのやりとり。
これ書き終わってから改めてゲームやり直してみたんですが、斎藤ルートそのまんま過ぎて血の気引いたwあれ、いろんなルートの要素を詰め込んだつもりだったのだが、結構セリフ被ってましたw
いやーここまで被ってるとはな……(滝汗)斎藤さんはキャラ被りしてるからなるべく被らないようにと用心してたのになぁ。警戒し過ぎて一周してきちゃったみたいだ。
もう何が斎藤ルートで何が土方ルートで何が藤堂ルートなのか分からなくなってきた。脳内で混ざっちゃってるよ……orz
ただ、同じセリフでも、斎藤さんと山崎さんでは捉え方も違うので、そこを楽しんでいただければ・・・?山崎さんなんかジョーク飛び出してるからね。
第七章からは完全に山崎ルートですので。もう少しご辛抱下さいませ……!

次回、吸血来ます!(笑)
 

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