第七章「限界と離別」 其の壱

 

 

 

私達は目的地であった会津へと到着した。
土方さん不在の中、斎藤さんが新選組を仕切り、会津を舞台に新政府軍と応戦していた。

島田「山崎君、彼をお願いします!」
肩に大きな銃創をつくった隊士が私達の所へ運ばれてきた。
山崎「雪村君、綿紗(ガーゼ)を取ってくれ」
千鶴「はい!」

刀傷と異なり、銃による傷は弾丸を取り除く所から始まり、困難を極める。
未だかつてないほどの鉄砲での戦いを強いられるこの戦で、医学の知識を持つ私達は何かと重宝されていた。
戦場に出て、怪我をした人を手当てする。そんなことが私や山崎さんには当たり前になっていた。
だから油断していたのかもしれない。


山崎「弾丸は摘出できた。あとは止血……ぐぁあ!」
山崎さんは手にしていた器具を落とし、左手で口鼻を隠し、右手で必死に胸のあたりを押さえる。
千鶴「山崎さん!?……まさか、血のにおいで!?」

羅刹にとって、血のにおいを嗅ぐ事は大変辛くなる。
そうなることは分かっていた。それでも戦場で役立ちたいと山崎さんは出陣してきた。
血に狂わないよう、いつも鼻を隠すように口当てをして。
今回も同じだ。いつものようにやっていれば問題ない。そう油断していたのだ。
山崎さんが変若水を飲んで数カ月。体に馴染めば発作も酷くなる。山崎さんは既に少しの血のにおいでも狂ってしまうほど羅刹の力が増大していたのかもしれない。

千鶴「山崎さん!山崎さん!!」
山崎「だ、大丈夫、だ……それより彼の手当てを。あとは止血だけだ。君にもできるだろ?」
千鶴「で、でも、山崎さんが……!」
山崎「俺は耐えられる。大丈夫だ、まずは彼を救ってくれ……」
千鶴「やまざ……はいっ!」

零れ落ちそうな涙をこらえ、止め処なく血が流れている隊士の元へ戻った。治療中、私の後ろで山崎さんが苦しんでいた。その苦悶の声を聞きながらも、後ろを振り向く事は許されない。私はもう誰一人死んでほしくない。その思いは山崎さんも同じ。この隊士の命を助ける事が、何よりも大事なんだ。そう言い聞かせて、私は後ろを振り向かなかった。

山崎「ありがとう、雪村君……」
私が隊士の手当てを終えた頃、山崎さんの発作もほぼ治りかけていた。
額には酷い汗。どれほど彼が苦痛に苛まれていたか。想像するだけで胸が痛む。
山崎「ちゃんと血も止まっているようだな……これなら大丈夫だろう。きっと彼は助かる、君のお陰だ」

千鶴「山崎さん……山崎さんは」
山崎「俺はもう大丈夫だ。心配する必要は無い。ただ、またこのように君に迷惑を掛けてしまうのは考えものだな……」
千鶴「迷惑だなんて思っていません。ただ山崎さんが心配なんです」
山崎「……また、『新選組での居場所がなくなった』と言うと思ったからか?」
千鶴「え?……は、はぃ……」
考えていた事を言い当てられ、私は顔を伏せてしまった。

山崎「確かにこれで、救護としての任務も務まらなくなるかもしれないな。でも、君は言ってくれただろ?俺の居場所は新選組にちゃんとあると。俺にはまだ任務がある、君を守る事、この任務は俺がどんな化け物になろうとも絶対に遂行する」
千鶴「山崎さん……!」
前向きな言葉に私は顔を上げ、胸をなでおろした。

 

+++

 

平助「お待たせ!」
千鶴「平助君!土方さん……!」
何ヶ月振りだろう。流山で別れた土方さん、平助君とようやく再会する事が出来た。
土方「合流するのが遅れちまって悪かったな。斎藤もよくやってくれたそうじゃねーか。話はこっちにも伝わってたぜ?」
斎藤「俺はあくまで任務を果たしただけです。局長、副長からお預かりした新選組を守り抜く事が俺のなすべき事でしたから」
土方「ああ、よくやってくれてるさ」
山崎「副長、その足は……?」
土方「あ、ああこれか、宇都宮でちょっとやっちまってな。山崎、後で少し見てくれ。一刻も早く治さねぇーと……会津も微妙になってきたからな……」
千鶴「え?今なんて……?」

山崎「分かりました」
斎藤「土方さんも、あまり無理をなさらないで下さい。前線指揮は引き続き俺が務めます。怪我が治るまでは戦闘指揮をお願いします」
土方「……ああ、そうだな。この足じゃ的にしかならねぇーな、斎藤頼む」
斎藤「承知しました」


 

 

強制「我慢させる」イベント(苦笑)
こ れ が や り た か っ た ! (笑)

そして土方さん、平助君が帰ってきてくれました。
もう、斎藤さんでこの二人をいじるのは限界です。平助がゴッドに見える。神々しい。
といっても、平助も照れっ子ちゃんなので、二人をいじるのは難しいですけどね。
やっぱここは、歳三父さんの出番ですね。パパ、頑張って!

それにしても今回ちょっと短すぎ?7章は身辺整理って感じで、実はあまり山崎さんと千鶴ちゃん出てきません(苦笑)
8章が無駄に長いかもです。
 

 

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