第六章「矛盾した想い」 其の参

 

 

 

翌日―――

千鶴「山崎さん、本当に大丈夫ですか?特に今日は日差しが……」
山崎「大丈夫だ。君こそ大丈夫なのか?昨日だって……」
千鶴「あ、あ、あれは、ですね、その……すみませんでした」
山崎「あ、ああ……?とにかく無理はしないでくれ。何かあったら真っ先に言ってくれ」
千鶴「はい!」

島田「敵兵です!おそらく20程度と思われます」
斎藤「分かった。この道では回避も無理だろう。各自準備を」
隊士「はい!」
斎藤「山崎君はあそこに隠れて千鶴の護衛を頼む」
山崎「了解しました」

戦闘が始まった。
しかし局面は拮抗していた。
斥候部隊が伝えたのだろう。直に敵本陣の兵士達もやってきた。
徐々に拮抗は崩れ、敵側優勢に傾きつつあった。

山崎「……俺も参戦する!雪村君はそこに隠れていろ」
千鶴「で、でも……」
山崎さんの鋭い視線が注がれる。私には止めることは出来ないのだと悟った。
千鶴「どうかご無事で」
私は木陰に隠れながれ、彼らの無事の帰還を祈った。


敵兵「おい、お前、そこで何をやっている」
千鶴「あ……!」
隠れて戦況を見守っていた私だが、ふとした油断から敵兵に見つかってしまった。
敵兵「何見てるんだ小僧。お前もアイツらの仲間か?」
そう言いながら敵兵の刀は既に空に大きく振りかぶられていた。

千鶴「いやぁぁぁ!」
私は精一杯の大声で叫んだ。
斎藤「やめろ!」
斎藤さんの声と共に脇差が敵兵の手に刺さる。そしてそのまま駈け出した斎藤さんは敵兵をバタバタと斬り倒していった。
斎藤「千鶴、大丈夫か?」
千鶴「は、はい……斎藤さんありがとうございました」


斎藤「それで、山崎君は?」
千鶴「戦っておられます」
斎藤「戦うと言っても今は昼間だぞ。そんな所で羅刹がまともに戦えるわけが……」
敵兵に襲われたことで、山崎さんを見失っていた私は必死にその姿を探す。
千鶴「あ、あそこです!あそこに……」
山崎さんの姿を見つけ指を指すと、山崎さんがゆっくりゆっくりと地面に倒れて行くのが見えた。
千鶴「倒れ……や、危ない!」

倒れる山崎さんの背後には既に刀を振り上げた敵兵がいた。
気がついた時には、斎藤さんは先程使った脇差を引き抜き、鬼神のごとき速さで再び投げつけ、敵兵の注意を逸らしていた。

斎藤「ここは危険だ、お前も付いてこい」
私は斎藤さんに腕を引かれ、山崎さんの元へと駈け出した。
そして再度攻撃を加えようとした敵兵をもはや芸術とも言える剣技で斬り伏せた。



斎藤さんらの活躍もあり、徐々に立場は逆転し、劣勢になった敵兵は一旦退くようにしたようだ。
私は倒れる山崎さんの元へと寄り、彼の額に手を広げる。
千鶴「山崎さん!山崎さん!!……酷い熱!」
山崎「すまない……」
昼間の照らつく光は、羅刹となった山崎さんの体を蝕んでいた。
斎藤「山崎君。アンタの行動は自分の身だけでなく、千鶴も危険に晒した事になるのだぞ?」
山崎「すみません。過信していました」
斎藤「無茶はしないでくれ。副長から聞いている、君は千鶴の護衛役なのだろう?なら護衛役として千鶴を守れ」
山崎「………はい」
山崎さんは自分の無力さが悔しいのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


+++

その日の晩のことだった。
陣で休む山崎さんの隣に腰を下ろしていた私に突然こう切り出してきた。

山崎「君は俺から離れた方がいい」
千鶴「え?なんで、そんな、いきなり……」
山崎「俺はやはり戦闘では劣る。ましてや昼間は今日のように」
やはり山崎さんは戦えなかったどころか足を引っ張ってしまったことを気にしているようだ。私にも足手まといになることの悔しい気持ちは分かる。きっと私以上に山崎さんが苦しんでいることを。

千鶴「羅刹ですから、仕方がないことです。そこだけは認めましょう、山崎さん。平助君がそうしていたように、昼に寝て、夜起きる生活をすればお身体に支障はでないと思います。私もそうしますから」
山崎「なぜ、人である君が昼夜を逆転させる必要がある。人とは朝起き夜に寝るものだ」
千鶴「でも……」

そんな事気にしなくてもいいのに……山崎さんには何も気にせずいてもらいたいのに……私はなんと返せばいいのか分からず言葉を詰まらせてしまった。
暫し、沈黙の時が流れ、山崎さんは視線を私から逸らし、足元を見ながら言葉を発した。

山崎「……君の護衛は斎藤組長にお願いする」
その言葉に私は思わず固まってしまった。

千鶴「そんな、だって、山崎さん誓って下さったじゃないですか、私を守るって。江戸で……」
山崎「俺より斎藤組長との方が君も気が楽だろ?俺はいつ発作が起きるかわからない。苦しみに耐えかねて君を傷つけてしまうかもしれない。それに君は斎藤組長と仲がいい。適任だろ」

適任って……そんな!
……山崎さんは土方さんの命に背くのですか?

 

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