第七章「限界と離別」 其の弐

 

 

 

千鶴「鬼!?」
土方さんの怪我の本当の理由を平助君は教えてくれた。


平助「ああ、宇都宮城に風間がいたんだ。俺が駆け付けた時にはもう土方さんボロボロでさ、あの天霧とかいう奴が仲裁してたんだけど、風間は『絶対に許さぬ』とか言ってて」
斎藤「鬼達は新政府軍に与している。とはいえこんな北の地にまで付いてくるとは」
山崎「しかし、風間達は新政府軍を離れ、独自に動いていたはずです」
平助「もしかすると、本気で土方さんへの個人的な仕返しかもしんねぇーな。鳥羽伏見の時、風間の顔に切り傷をつくったらしいからな。まぁ、鬼だからすぐ消えたみたいだけど」

千鶴「鬼……」
平助「え、あ、千鶴、違うぞ、お前はそりゃ、鬼なんだろうけど……俺らよりよっぽど人間じゃん。ってこれも違う違う、なんつーか、お前が気にする事じゃないんだよ!な?」

平助君の言葉は悪気があるように到底思えない。ただ、平助君は私を励ましてくれようとしているのは分かる。そして自分の失言に焦っていることも。

島田「そうですよ、雪村君」
千鶴「でも私がいなければ、鬼がいなければ、新選組はもっと!」

私がいなければ。私が我ままを言ったから。『みんなと一緒に居たいと』。
あの時、お千ちゃん達と一緒に行くことを選んでいれば、もしかしたら土方さんは怪我をすることはなかったのではないか。

私の考えを読み取ったのか、斎藤さんはいつもと変わらぬ静かな声で答える。
斎藤「いてもいなくても同じだ。奴らが新選組と敵対するというのなら戦うだけ。お前の存在は関係ない」
島田「むしろ君が我々にしてくれたことの方が大きいですよ!」

千鶴「私が……したこと……?」
平助「そうだよな。上手い飯をつくってくれるし、気を回して手伝ってくれたり、そんなお前に血まみれの隊服なんか洗わせちまったしな」
平助君は京時代を思い出したのか、苦笑いを浮かべる。
島田「巡察帰りに手ぬぐいを持ってきて下さるのも、些細なことですが嬉しかったですよ」
斎藤「前にも言っただろう。お前は己を卑下し過ぎだ。皆、お前に感謝している」
千鶴「感謝なんて……迷惑を掛けているからせめてと……それなのに……」
足手まといでしかない、の一心でしてきた事だったのに……斎藤さん達は感謝していると言ってくれた。私も新選組にいていいのだと改めて認めてもらえたような、そんな気持ちになった。そしてそんな心の声が聞こえていたのか、山崎さんが私の肩に手を載せ、こう言ってくれた。
山崎「君にも、ちゃんと居場所があるんだ、ここ(新選組)に」
千鶴「はい!嬉しいです!」

その後、平助君は羅刹隊と合流するため、斎藤さんと島田さんは任務のため、その場を去って行った。
気がつくと、私と山崎さんの二人になっていた。私は改めて山崎さんに向き合った。

千鶴「先程はすみませんでした。でも私もここにいていいんだって思うことが出来ました、本当に嬉しかったです」
山崎「以前、君は俺がここにいていい理由を言ってくれたな」
千鶴「あ、そうですね、あんな偉そうなこと言っておいて私は…恥ずかしいです」
山崎「いや、そうじゃないんだ。俺は君に励まされてきた。もし君も思う事があるなら悩まず口にしてほしい。鬼の事を気にするなと言っても、君はどうしても考えてしまう、そうだろ?」

……!山崎さんの問いに私はハッとする。

千鶴「はい…その通りだと思います。気にしちゃいけないと思っても、やはりどこか申し訳ないって思っちゃって……」
今宵もきっと、深く考えすぎて眠りに着く事が出来ないだろう。
山崎「君は優しすぎるからな。少なくとも俺に気を使うことは無い。何でも遠慮なく頼ってくれ」
千鶴「………」

山崎「どうした、雪村君?…何か失言をしただろうか?」
千鶴「いえ、山崎さんの言葉が嬉しすぎて……山崎さんがいるから私もいられるんだってそんな気持ちなりました」
山崎「俺も同じだ。君がいるから俺にも居場所があると。新選組にいる意味を教えてくれたのも君だ。『ありがとう』としか言えない俺を許してくれ」
千鶴「あの、では、さっそく言わせていただきます!」
山崎「ああ……?」
千鶴「私にも気を使わないで下さい。私にできる事ならなんでもします。できないことにも挑戦します。だから山崎さんも何でも話して下さい!」
山崎「そうだな、そうするよ」
山崎さんは小さく笑みを浮かべた。
千鶴「お互い隠し事はダメですよ!」
山崎「手厳しいなぁ、それは」

 


またしても短いですね。其の壱、其の弐をひとつにもとめちゃっても良かったのかも。
土方さんは宇都宮城奪還の際、ちー様とバトルして、負傷しました。
ちなみに、土方さんは変若水飲んでないです。最終的には怒ったちー様にボロボロにさせられましたが、それまではかなりの善戦をしたらしいです(平助談)って設定。
前章で、「弱気なるなゴラァ」と山崎さんに説教こいた千鶴ちゃんですが、千鶴ちゃんは千鶴ちゃんで未だに新選組に自分がいていいのだろうか?という疑念を持っていました。
でも、これまで千鶴が新選組にしてくれたことを考えれば、戦えないし隊士ではないけど仲間、家族みたいなものっという風に考えてくれてるんじゃないかな~と思い書きました。
そろそろ、千鶴と山崎さんのやりとり書いてるの恥ずかしくなってきたぞ(笑)
七章は次回で終わりですが、次回も短いな……7章全体的に短すぎることが今更判明。
その代わりと言ってはなんですが、8章は長いです。みんな付いてきてね!(苦笑)
 

 

其の壱に戻る 其の参に進む 薄桜鬼部屋に戻る