第七章「限界と離別」 其の参

 

 

 

土方さん達が会津に着いてから数日が経った。
土方さんの怪我も順調に治っているようで、私達は心を撫で下ろしていた。


島田「土方さん、母成峠に出陣、二本松城を奪還せよとの命が下りました!」
斎藤「ついに来たか」

斎藤さんはこの命を待っていたとばかりに、右腰に差した刀の柄に触れる。
しかし土方さんはその命に昂揚する素振りは無く、ゆっくりと瞼を閉じた。
土方「待て、斎藤。新選組は会津を離れる」
その言葉に斎藤さんの表情が少し曇ったように見受けられた。
島田「ひ、土方さん?」
伝令に来た島田さんも、土方さんの言葉に驚いたようだ。チラっと山崎さんの表情を窺うと、山崎さんも少し驚いたような顔をしつつも、そうなるのではないかという予想は立てていたようで、冷静さを保っていた。

土方「会津でもたもたして戦力を減らすより、仙台で敵を迎え撃つ方がいい。大鳥さんも同意見だ」
斎藤「しかし!」
斎藤さんは顔を上げ口を開くも、それ以上言葉を繋げられず、にわかに口が開きっぱなしになっていた。そして少し考え込み、答えがまとまったのか、ゆっくりと言葉を紡いだ。
斎藤「お言葉ですが、新選組は会津藩に多大なご恩顧を受けています。今会津藩を見捨てるなど……」
土方「……確かにな。今の俺達があるのも会津藩あってのことだ。しかし、近藤さんに任された新選組をここで終わらせることは、俺にはできないんだよ」


斎藤「………俺は……ここに残ります」
山崎「斎藤さん!?」
先程まで冷静だった山崎さんも、斎藤さんの言葉にはさすがに驚いたようで、裏返った声を出してしまっていた。

常に土方さんに付き従ってきた斎藤さんが新選組を離れることに、同じように土方さんに付いてきた山崎さんには信じられなかったのかもしれない。

土方「そうか……」
暫くの沈黙の後、土方さんは小さくそう呟いた。
斎藤「土方さん!俺は……」
土方「そう気にするなって。お前の言うことは正しい。新選組が目指していたものは、『誠の武士になること』だ。主君に尽くすのは武士として当たり前じゃないか。ただ俺達はその主君が違っただけだ。お前は会津公であって、俺は近藤さんが託した新選組なんだよ」
斎藤「……土方さん……」

土方「俺達が出立するまではまだ時間がある。お前ももう一度ゆっくり考えろ。俺達に付いて行くのも、会津に留まるのもお前次第だ」
斎藤「はい……」
土方「俺はこれから大鳥さん達と軍議がある。そろそろ行くぜ?」
斎藤さんは無言だった。土方さんは斎藤さんを憂いるような顔をしながら斎藤さんの傍を離れた。このやりとりを見守っていた私達も自然と土方さんと一緒にその場を離れる流れになった。


土方「んで、お前たちはどうするんだ?」

歩みをとめた土方さんは私達の方を振り返り、尋ねた。
島田「俺は土方さんに最後までついて行きます」
山崎「無論、俺もそのつもりですが……」
山崎さんの視線がチラっと私に注がれていた。そうか、私の返答次第では山崎さんの行動も変わってしまうのかもしれない。
千鶴「私も!土方さんに同行します!」
私に迷いはなかった。
土方「そうかい。近いうちに会津を発ち、仙台に向かう。各自準備を急げ」

 

+++

 

そして会津を出立する日が来た。
土方「答えは出たか?」
斎藤「はい……俺はやはり会津に残ります」
土方「薩長の連中は会津には特に強い恨みを持っている。俺達が散々殺してきたからな。それでもか?」
斎藤「はい、尚の事、会津を見捨てられません、申し訳ありません」
土方「謝らなくていいんだ。お前が選んだ道なら正しいんだよ。隊士の中にはお前のように会津で戦いたいという奴もいる。会津新選組としてこの地はお前に任せる」
斎藤「土方さん……」

土方「それじゃ俺達はそろそろ行くぜ。斎藤、死ぬんじゃねぇーぞ?」
斎藤「……はい」
そして土方さんは仙台へと続く道を歩き出した。
私達も付いて行くべく、歩み出す。

斎藤「山崎君、土方さんを頼む……!」
今にも泣き出しそうな、それでいて力強い声で斎藤さんは言った。きっと土方さんに最後まで付いていきたいという気持ちがあるのだと思う。でも譲れない想いの為に斎藤さんは残ることを決めた。
斎藤さんの心情を察してか、山崎さんは使命感に燃えたように言葉を返した。

山崎「はい、その命、しかと受け取りました」
千鶴「斎藤さん、どうかご無事で」
斎藤「ああ。お前も無理はするなよ」
そう言い残し、斎藤さんもその場を去った。私達は逆の方角へ。
斎藤さんの背を見送った私達は、土方さんを見失わないよう、急いで背を追いかけた。

 


さよなら斎藤さん回。
山崎さんは斎藤さんと割と仲いいんじゃないですかね?
副長ファンクラブやってそう。会長が斎藤さんで、副会長が山崎さん。
副長について熱心に語り、盛り上がります。その盛り上がり方に島田さんもドン引き。
島田「組長ぉ!俺、監察やっていく自信なくなりました……」
永倉「おーい左之!島田の分も酒追加だ!」
しかし、そんな副長至上主義の二人も石田散薬についてだけは意見が割れます(笑)
山崎「会長、さすがに俺もそれだけは賛同しかねます」
斎藤「なにゆえ!?」
いつか、二人に沖田さんを加えたギャグ話書きたい。ちなみに、沖田さんは近藤ファンクラブ名誉会長です。
沖田「土方さん?あの人言ってることとやってることが矛盾してるよね。食べ物は粗末にするなーて鬼の形相で迫ってくるのに、自分が忙しいと出された食事、食べないし」

とまぁ、冗談はさておき。(沖田さんのセリフは特にアニメを見ながら思ったことでした 笑)
山崎「斎藤さんの思いは受け取った!」
的な感じになってると・・・・・・いいな・・・・・・

 

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