第九章「終わりゆく大地、始まる大地」 其の弐

 

 

 

山崎「蝦夷共和国樹立および陸軍奉行並就任おめでとうございます」
千鶴「おめでとうございます、土方さん」

私達は船旅を経て、蝦夷に辿り着いた。
蝦夷の地を治めていた松前藩と交戦、結果として松前藩を追い出し、旧幕府軍は箱館を中心に蝦夷共和国をつくった。
総裁に榎本武明さん、陸軍奉行に大鳥圭介さん、そして陸軍奉行並に土方さんが選ばれた。
蝦夷共和国にやってきた私達は、名目上の役職を与えられた。
山崎さんは土方陸軍奉行並直属の監察方に、私は土方さん付きの小姓ということになった。
なんだかまるで京にいた時のような関係だ。

土方「まさか本当に来るとはな。そのままどっかに逃げて、所帯でも持ってんのかと思ってたぜ?」
山崎「土方さん!?それはどーゆー意味で……」
土方「そのまんまの意味だろ?」
そんなやりとりを見ていた私はカァァと耳まで真っ赤にしていた。
山崎「お、俺はそんな、士道不覚悟なことはしません!俺は新選組として戦い抜くだけです!」
土方「ま、お前はそんな奴だよな、……っち、つまらねぇーな」
山崎「つ、つまらないって」
私は恥ずかしくて顔が上げられなかった。

大鳥「おや、珍しいね、土方君がからかうなんて」
戦場には似合わない陽気な声が響いた。
土方「ああ、大鳥さん。何だ、船着き場に用でもあったのか?」
大鳥「あの商船に新しい武器の輸送を頼んでいてね。それを見て来た所だよ」
山崎「ご無沙汰しております、大鳥さん。陸軍奉行就任おめでとうございます」
大鳥「君達もようこそ、蝦夷へ。雪村君の洋装も、とても似合っているじゃないか」
千鶴「ありがとうございます」
大鳥「仙台で見繕ったんだろう?山崎君の見立てかな?いい趣味してるねぇ~とても可愛らしい」
山崎「じ、自分は何も!ちづ、雪村君が選んだ物に銭を出しただけです」
烝さんは顔を真っ赤にして誤魔化そうとする。
この服は確かに烝さんが選んだくれたものだけど、それを口にされると私も恥ずかしくて、一緒に誤魔化そうと言葉を繕うがどうも嘘は下手な私は吃ってしまった。
二人して顔を真っ赤にしている様子を見て、土方さんはため息を吐く。しかし口元には笑みが浮かんでいた。
土方「おいおい、これが新選組きっての監察の顔かい。……いい表情するようになったじゃねぇーか」
山崎「土方さんも、からかわないで下さい!」
烝さんは若干怒気を孕んだ声と鋭い視線を土方さんに浴びせる。
土方「おっとすまね。山崎はキレると怖いからな。大鳥さんも、あんまり冷やかすと危ねぇーぞ?」
大鳥「本当かい?それは怖い怖い」
山崎「『鬼の副長』がそれを言いますか」
土方「随分と言うようになったじゃねぇーか。まぁいい、とりあえずお前らは船旅で疲れてるだろ?まずは休んでこい」
山崎「ありがとうございます」
土方「島田を呼んでる。後でこの辺を案内してもらえ。んじゃ、大鳥さん、合議へと行くかい」
大鳥「そうだね。じゃあ、山崎君、雪村君、僕達はこれで失礼するよ」

 


暫くすると船着き場に島田さんがやってきた。
島田「山崎君!雪村君!」
山崎「久々だな、島田君」
千鶴「お久しぶりです島田さん」
仙台で別れた時と変わらない様子だ。

山崎「松前攻略の話も聞いている。凄かったらしいじゃないか」
島田「どれも土方さんの采配のお陰です。本当に素晴らしい方です、あの方は」
山崎「まったくだな」
島田「まぁ、まずは疲れを癒して下さい。屯所に案内します」
千鶴「よろしくお願いします」

島田さんに連れられ、現在の新選組の屯所、称名寺に案内された。
土方さんは基本的には屯所ではなく奉行所にいるそうで、土方さん付きの役職の私達も数日後にはそちらに移動することになる。

 

荷物を片づけ、一息吐いた所で私は、小包を拡げた。
千鶴「島田さん、あの、こんな時に少し不謹慎かもしれないのですが、おまんじゅうを作ってきました。よろしかったら皆さんで召し上がってください」
島田「おお、これは美味しそうだ。雪村君、ありがとうございます!」
千鶴「お口に合うと良いのですが……」
島田「雪村君の作る菓子や料理は絶品ですからね。毎日こんな美味しいものを食べていた山崎君が羨ましいですよ」
山崎「し、島田君!」
烝さんは顔を赤らめながら島田さんの言葉を遮ろうとしていた。


私達が一時、戦線を離れていたのは、羅刹の存在を知らない一般隊士達の間では「山崎さんが病気を患い戦線を離脱し、私はその看護をしていた」ということになっているらしい。お陰で私達は隊士の方々と蟠りなく新選組に戻ることができた。この夜、歓迎会と称した宴会まで開いてくれたほどだ。
以前、烝さんはこう言っていた。監察方という役職は隊士の監視も任務の一つ。隊士の中には自分の存在を良く思っていない者も多い、と。
それに今の新選組の隊士は、江戸で新たに募った隊士も多い。そんな中であっても、山崎烝という人は歓迎された。みんなから慕われているからこそなんだと思うと、私も嬉しくなった。
 

 

 

短!キリがいい所で区切ろうとすると、どうも九章は結構ブツブツ短めになりそうです。書きたい話を書いたり消したり順番を入れ替えたり、色々細かく書きなおした回なので、もしかしたら助詞がおかしかったり、話の流れが不自然な所があるかもしれません。一応事前チェックはしているつもりなのですが・・・
とりあえず、新選組の屯所は称名寺だったらしいっということで、称名寺にしちゃいましたが、この頃の屯所も称名寺だったのかはちょっと分からないデス。すみません。
昨秋、函館に旅行に行きましたが、現在の称名寺とは場所が異なり、元町ホテルの辺りが当時の称名寺なんだそうです。
さて次回からラブラブのターンです。ぶっちゃけますと、話の構想はまとまってますが、あまりの恥ずかしさに字に起こせていない状態です(苦笑)
山崎さんのキャラもよく分からなくなってきたし。言い訳をすると、この捏造ルートの構想は、キャラクターCDも黎明録も発売されていない2010年9月なのです。
ということで(?)あくまで「妄想無双」における山崎さんっということでご理解頂けると幸いです。

 

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