終章「絆の先に」

 

 

 

数ヵ月後―――


千鶴「お千ちゃん!今日だよ。ねぇ、着物おかしくない?髪飾りずれてない?」
千姫「大丈夫。千鶴ちゃんは毎日可愛いけど、今日は特別可愛いわ。なにせ表情がいいもの」
千鶴「……でもこんな女の姿、ほとんど見てもらった事ないの。ビックリしないかな?」
風間「馬鹿かお前は。喜ぶに決まっているであろう」
千鶴「風間さん……!」
天霧「どうやら到着されたみたいですよ、千鶴様」
千鶴「ありがとうございます!」
私はバタバタと足音を立てながら玄関に向かった。やっと会える、烝さんに。
あの後、烝さんは弁天台場にたどり着き、島田さんら新選組と一緒に抵抗したものの、4日後に降伏せざるを得なくなった。烝さん達は4カ月の謹慎を命じられていた。
その謹慎が解け、今日、烝さんが戻ってきてくれる。私の心の臓は波打つかのように音がしている。

千鶴「烝さん、お帰りなさい」
山崎「ただいま、千鶴」
私達はきつく抱き合った。

山崎「女人の姿、とても似合っている」
千鶴「これからはこの姿、嫌になるほど見てもらいますよ」
肩にそっと柔らかい風と感触を感じる。
私は感じるままに瞳を閉じた、
その時だった。

風間「おい山崎」
風間さんの声が届き、私達はカッと両の目を開いた。


そこには声の主である風間さんを筆頭に、お千ちゃん、不知火さん、君菊さんまでもが家の中から覗き込むように、そして天霧さんはその四人の姿に呆れた顔をしながら私達を見ていた。
一部始終を見られていた恥ずかしさから、互いに咄嗟に離れ距離をとる。
そんな私達の羞恥などお構いなしに、風間さんは言葉を続けた。

風間「山崎、良く聞け。東北の地に、かつて雪村家のあった小さな村がある。そこの水を飲め」
山崎「雪村の……?」
千姫「羅刹の毒を完全に抜き去る事はできないだろうけど、軽減させる効力はあるそうよ」
再会の嬉しさの余り忘れかけていたが、羅刹の彼が謹慎生活をどう過ごしていたのか。ここ数カ月頭から消える事のない不安事だった。
千鶴「そうです、謹慎中、発作が出た時どうされていたんですか!?」
山崎「君にまた会える為ならどんな痛みも越えられるさ。それに蝦夷に行ってからはさほど発作に苦しむことはなかった」
千姫「雪村の水ほどの効力はなさそうだけど、蝦夷の水にも効力を薄める作用があるのかもしれないわね。あの地は未開拓の地だからはっきりしたことは言えないけど」
山崎「雪村の地か……」

雪村の地……
そこはかつて薫と戦った場所であり、幾千の悲しみを秘めた場所。
でもそこにあるのはきっと悲しみだけじゃない。烝さんとなら楽しい思い出だって作れるはず。

山崎「千鶴、俺に付いてきてくれるか?」
千鶴「もちろんです」

 

 


かつて雪村家があった村。今は誰一人住んでいない。
私達はここに住むことにした。風間さん達が言った通り、雪村の地の水は烝さんに徐々に人間らしい生活を取り戻してくれた。
そして生活が落ち着いた頃、この村から少し離れた人村で診療所を営むことにした。
その為に、江戸に一度戻り、父様の残した膨大な医学書を取りに行った。
江戸――現在は「東京」というらしい――では剣術修行に明け暮れる永倉さんや島田さんとも会う事が出来た。
お二人から話を聞けば、斎藤さんは会津で戦い続け謹慎処分を受けたものの、生きていると。原田さんは異国に渡ったなど、ずっと気になっていた隊士の方々の話が聞けてとても有意義な時間を過ごした。
そうして北に戻った私達は――

 

山崎「風邪による腫れのようですね。拗らせるといけない。薬を調合しておきますよ」
老婆「そうですか、ありがとうございます」
山崎「千鶴、風邪薬の調合を頼む」
千鶴「はい、烝さん」

老婆「いやーおまえさん達が来てくれて本当助かっているよ。こんな田舎じゃあ医者なんかほとんどいないからねぇ」
老翁「そうじゃ。千鶴ちゃんの笑顔を前にしたら、病なんて飛んで行っちまうね」
千鶴「そ、そんな……」
私が苦笑いを浮かべると、お爺さんは必死に反論した。

老翁「いやいや、本当だよ。こんな別嬪さん、勿体ないねぇ。ばあさんと出会う前に会いたかったよ」
老婆「何言ってんだよ、あんたは。また奥さんに怒られるよ?でも別嬪さんだってのは認めるよ。あんたは昔の私に似て、別嬪じゃ。先生が羨ましいよ」
老翁「何が昔の私じゃ。自惚れるのも大概にせい!」
老婆「なんじゃと!?」
お爺さんとお婆さんの言い争いに熱が籠り始めた。さすがにこのまま二人に会話の流れを任せるわけにはいかない。烝さんは少し笑いながら二人を宥める。


山崎「まぁまぁ落ち着いて。血圧が上がったら大変だ。……でも、確かに彼女は俺には勿体ない女性ですよ」
千鶴「そ、そんなことないです!烝さんは……わ、私の、旦那様です……」

っは!私は患者さんの前で何を言っているのだろうか。

老翁「悔しいが、先生と千鶴ちゃんはお似合いだよ。先生なら仕方がない……」
老婆「ほら、あんたも診察終わったならさっさと出る!二人の邪魔するんじゃない!」
老翁「世話になったな、千鶴ちゃん、先生。わしらは帰るぞ」
千鶴「ゆっくり養生して下さいね。お大事にです。帰り道、気を付けて下さいね?」
二人の患者は診療所を後にした。

千鶴「とても元気な二人でしたね」
山崎「あの様子なら、すぐ治るだろう」
千鶴「あの!さっきのことなのですが……」
山崎「さっき?」
千鶴「えっと、その……」

私は烝さんが大好きで、夫婦になれて嬉しくて、勿体なくなんかなくて。むしろいつも支えてくれる烝さんの方こそ私には勿体なくて。でも絶対に手放したりなんかしたくなくて。ずっとずっと烝さんの隣は私の指定席だと、そう言い張りたかった。……私ってやっぱり身勝手な子供なのかも。

山崎「……俺は身勝手だからな。たとえ勿体ないと認識していても、絶対君を手放さない」
千鶴「な」
なんで私の考えていることを!?……えっと、えっと……!
山崎「ずっと、俺の隣にいてくれ、千鶴……」
千鶴「はい……もちろんです」

 

 

 ―FIN―

 


 

簡単な感想というか、皆さんに楽しんでいただけたのかどうか気になるというか……
簡単なアンケートを用意してみました。
ポチっと押すだけなので、是非答えて頂けると嬉しいです。
あと、感想なんかももらえると泣いて喜びます。
■感謝と言い訳
まさかの風姫(笑)
……すみません。でも、当サイトの取り扱いCPの中に風姫もあったので、予想付いてた人もいらっしゃる……かも?ですが。
風千も好きなんですが、藤堂ルートあれなんですかっていう(笑)
風間さんと平助&千鶴がお千ちゃんを助けに行くっていう。猛烈に萌えるだろ!
おかげで本編プレイ時は平千に萌え、風姫に萌え、山南さんに殺意が沸いて大変でした(笑)
お、お、お千ちゃんにディープキスだと!?ぜってぇー許さねぇーぞゴラァァァと。
あ、他ルートでは山南さん好きですよ。本当、彼の扱いが酷過ぎてね。土方ルート以外、まともなルートがないってどゆことw随想録やって本当に良かったと思います。黎明録の山南さんはもっと良かった。本編の山南さんホント、酷過ぎる……

さて、散々あおっておいて風姫オチという卑怯な手に走ったわけですが、先日UPした「
君の為に、貴方の為に」の後書きで「どのルートでも成り立つように書きました~」と書きましたが、実際にはこの山崎ルートを念頭に考えた話でした。
本来なら本編中にこの二人のやりとりを描くべきなのですが、鳥羽伏見以降から書き始めている為、それも難しく・・・結果あのような未完成の短編をUPするっということになりました。一章がないのに二章を先行UPしたのにはこーゆー裏がありましたっていう。すみません(苦笑)

さてさて。鬼ファミリー大団円END\(^o^)/
になると思ったのですが。というか最初書き上がった時はそう思っていましたが、
よくよく考えたら、まだいるじゃないか。

薫ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

ってことで、急遽、仙台編は薫話になりましたっていう。
最初は全然違う話考えてました!(笑)
仙台城とか関係なしに、史実に近い話を何かできればと思っていました。
薫は沖田ルートにしか出てこないキャラですが、鬼大団円ENDにするなら薫もちゃんと描かないとダメだなっと思いまして。
結局、あの後の薫はまだ書いてませんが、随想録的な短編で補完出来ればなとw
随想録エピソードを見込んで、まだ回収してない伏線もありますしw
一本木関門で三発目の銃弾を食らった山崎さん、とか。
実はこっそり練ってます。ということで、もう暫し、山千カップル話をお楽しみください(笑)

ちなみに、謹慎4カ月は史実の島田さんの例を拝借しました。多分、同等だろうと。
それにしても生き残り組の永倉さん、島田さん・・・
二番組コンビ強ぇぇぇぇぇ(笑)
って思いました。今日の新選組研究は彼らの残した手記で進められているそうですよ。

長くなりましたが、最後までお読み下さり本当にありがとうございました!
 

 

其の六に戻る 薄桜鬼部屋に戻る